5月の政府発表から読み解く、これから中小企業が着目すべき政策動向

5月の政府発表から読み解く、これから中小企業が着目すべき政策動向

1.はじめに

2026年5月20日に中小企業政策審議会が開かれ、労働供給制約社会における中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化に向けた、今後の方向性が示されました。この内容は、6月に閣議決定される政府の骨太の方針にも反映される可能性が高く、中小企業が成長戦略を立てるうえで非常に重要なものになります。

出典:労働供給制約社会における中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化戦略(案) 

(中小企業庁 令和8年5月)

2.労働供給制約社会における「付加価値労働生産性」とは?

 現在の日本では、少子高齢化や人口減少を背景に労働供給(働き手の数)の減少が大きな問題となっています。2030年には約341万人の労働供給が不足するという試算もあり、これは大阪市の人口を上回る規模です。

 こうした労働供給が制約される中でも、労働需要(必要とされる働き手)は大きく減少しないと見込まれており、限られた人材の中でいかに生産性を高めるかが日本経済全体にとって喫緊の課題となっています。

 ここで重要となるのが、「付加価値労働生産性」という考え方です。これは、労働者1人当たりがどれくらいの付加価値額を生み出せるかを表す指標であり、これを高めるためには、付加価値(成果)そのものを高めることに加え、労働投入量を最適化する必要があります。

3.賃上げの促進

 「賃上げ」と聞くと、多くの事業者にとっては頭の痛いテーマというイメージが強いと思います。近年では多くの企業で賃上げが進んでいる一方で、特に中小企業では人材不足への対応として、やむを得ず収益を圧迫しながら賃上げを行う「防衛的賃上げ」が行われている実情もあります。

 一方、政策審議会では、賃上げを働き手のモチベーション改善や優秀な人材の確保につながる重要な要素と見なし、賃上げによって企業成長を加速させ、その成長を更なる賃上げにつなげていく「持続的な賃上げサイクル」を目指す方針が示されました。

この実現に向けては、現在に比べ多くの補助金で賃上げ要件が前提となり、加えてその水準も高くなる可能性があります。一方、賃上げを促す支援策として、補助金や税制優遇の拡充も見込まれるため、「補助金獲得に向けた賃上げ」ではなく、「賃上げ実現に向けた補助金獲得」へと意識を変えていく必要があります。

4.10億企業の創出

 これまで、売上高100億円を目指す中堅企業の成長を後押しする制度として、「100億宣言」が実施されてきました。これにより成長志向の中堅企業が支援された一方で、中小企業には裾野が広がっていないのが現実でした。売上高数億円以下の中小企業にとって、いきなり100億円を目指すにはギャップが大きすぎたためです。

 こうした状況を踏まえ、今年度からは売上高10億円を目指す中小企業を支援する制度の検討が始まります。具体的な制度内容は明らかになっていませんが、成長の核となる事業価値がある企業に対して、新たな補助金制度の創設や既存制度の拡充が進められる可能性があります。

 早ければ来年度から制度化される可能性もあるため、経営、販路、システム面等における自社の課題を整理し、その改善と成長に向けた戦略を早めに検討しておくことが重要です。

5. 省力化・省エネ支援の継続

 省力化・省エネ支援としては、これまで省力化投資補助金や省エネ補助金等の施策が継続的に実施されてきました。省力化投資補助金については、政府が2025年に策定した省力化投資促進プランに沿って補助金が実施されており、政策審議会では今後も当該プランを着実に実行する旨が示されました。加えて、政府は省力化の促進を「限られた人数で売り上げや利益を上げるための不可欠な施策」と位置づけており、今後も省力化投資補助金をはじめとする支援制度が継続すると見込まれています。

 一方、省エネについても「エネルギーコストの削減を通じて収益力の向上に直結する有効な手段」と位置づけられており、省エネ補助金をはじめとした支援制度も継続的に実施される見込みです。

 ただし、これら支援制度に関しても、今後は賃上げ促進の色合いが強まる可能性があります。申請要件における賃上げ水準が引き上げられることも想定されるため、単なる設備更新ではなく、労働生産性を高め、「持続的な賃上げサイクル」を実現するための投資として活用することが重要となるでしょう。

6おわりに

 今回の政策審議会では、今後の補助金制度の方向性を示す重要な考え方が示されました。

政府の方針として、賃上げと付加価値向上を促す流れは、今後ほぼ間違いなく加速していくと考えられます。この流れに乗り遅れると、賃上げのタイミングを逃すだけでなく、人材の流出や企業体力の後退につながる恐れもあります。

賃上げの実施額と比較すると、受け取れる補助金額が小さいと感じる方も多いかもしれませんが、「補助金獲得のための賃上げ」ではなく「賃上げのための補助金活用」という視点を持つことが非常に重要です。

まずは、賃上げを前提に付加価値労働生産性をどう高めていくかを整理し、その実現に向けた補助金活用を検討してみてはいかがでしょうか。