省力化補助金での「省力化」と「効率化」の違いを徹底解説

中小企業省力化投資補助金一般型の申請を検討されている中小企業の経営者の方から、「新しい機械を導入して生産性が上がるのに、なぜ補助対象にならないのか」というご相談をよくいただきます。
その理由は、補助金における「省力化」と一般的な「効率化」の定義が異なるためです。この違いを理解していないと、せっかく時間をかけて申請準備をしても不採択になってしまう可能性があります。
本記事では、中小企業省力化投資補助金における「省力化」の正しい考え方について、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
中小企業省力化投資補助金における「省力化」の定義
中小企業省力化投資補助金では、「人手による作業時間」がどれだけ削減されるかを省力化効果として評価します。
つまり、機械の処理速度が上がって生産時間が短縮されても、作業員が機械に張り付いている時間や段取り時間が変わらなければ、補助金上の「省力化効果」としては認められないのです。
補助金における省力化と効率化の違い
項目 | 効率化(一般的な意味合いの生産性向上) | 省力化(補助金の定義) |
着目点 | 機械の処理速度・生産量 | 人手作業時間 |
評価基準 | 総作業時間の短縮 | 作業者の労働時間削減 |
目的 | 生産効率の向上 | 人手不足の解消 |
この違いを理解することが、補助金申請成功の第一歩となります。
【事例1】認められないケース:マシニングセンタの単純更新
想定される状況
ボトルネックとなっている古いマシニングセンタを最新型に入れ替え、加工速度が30%向上するケースを考えてみましょう。
導入前:
- 1ロットの加工時間:8時間
- 作業員の段取り・監視時間:1時間
導入後:
- 1ロットの加工時間:5.6時間(30%短縮)
- 作業員の段取り・監視時間:1時間(変化なし)
一般的な考え方(効率化の視点)
「8時間で生産していたものが5.6時間で完了する」 → 生産性が30%向上 → 同じ8時間で生産すると約43%多く生産可能 → 効率化に成功
このような設備投資は企業にとって有益ですが…
省力化補助金の考え方(人手作業の視点)
「機械の加工時間は短縮されたが、作業員による段取り・監視作業は1時間で変わらない」 → 人手作業時間に変化なし → 省力化効果なし = 補助対象外
なぜ認められないのか
このケースでは、機械の処理能力は向上していますが、作業者が機械に関わる時間(段取り、材料セット、加工監視、取り出しなど)は削減されていません。
補助金の目的は「人手不足の解消」であるため、単に機械が速くなっただけでは評価されないのです。
また、既存のマシニングセンタの後継機種を導入する場合、オーダーメイド性が低い汎用機と判断され、補助金の対象製品カタログに登録されていない可能性も高くなります。
【事例2】認められるケース:長尺加工機の導入
同じ金属加工業でも、設備の選定次第で省力化効果が認められるケースがあります。
想定される状況
マシニングセンタで長尺材の加工を行っている事業者が、専用の長尺加工機を導入するケースです。
導入前(マシニングセンタでの長尺加工):
- テーブルサイズの制約により、ワークを何度もずらして加工
- 毎回、精密な位置出し(芯出し)作業が必要
- 1ロットあたりの段取り時間:3時間
- 加工時間:5時間
- 作業者の実作業時間:3時間(段取りと監視)
導入後(長尺加工機):
- ワークを1回セットするだけで全長加工が可能
- 掴み替え・位置出し作業が不要
- 1ロットあたりの段取り時間:30分
- 加工時間:5時間(変化なし)
- 作業者の実作業時間:30分(初期セットと監視)
省力化補助金の評価
「段取り作業時間が3時間から30分に短縮」 → 作業者の実作業時間が約83%削減 → 明確な省力化効果あり = 補助対象となる可能性が高い
なぜ認められるのか
このケースでは以下の点が評価されます:
- 人手作業時間の大幅削減:位置出し作業という熟練を要する人手作業が削減される
- 業務プロセスの変化:「複数回のセットアップ」から「1回のセットアップ」へ作業工程が変わる
- 特定業務への対応:長尺加工という特定の課題に対するオーダーメイド的な解決策
加工時間自体は変わらなくても、作業者が張り付く時間が劇的に減少しているため、人手不足の解消につながると評価されるのです。
補助金申請で重視すべき3つのポイント
1. 「人手作業時間」に着目する
補助金申請書では、以下を明確に示す必要があります:
- 導入前:どの作業工程に何時間の人手がかかっているか
- 導入後:どの作業工程が自動化・省略され、人手作業が何時間削減されるか
機械の性能スペックではなく、業務プロセスと作業時間の変化を具体的に記述しましょう。
2. 作業工程の変化を可視化する
単に「時間が減る」だけでなく、作業手順そのものがどう変わるかを示すことが重要です。
効果的な記述例:
- 導入前:材料投入→加工①→位置調整→加工②→位置調整→加工③→取り出し(作業者常時関与)
- 導入後:材料投入→自動加工→取り出し(セットアップ時のみ関与)
フローチャートや工程表を活用すると、審査員に伝わりやすくなります。
3. 自社の課題に特化した設備を選ぶ
汎用的な設備の更新ではなく、自社の業務課題を解決する専用性の高い設備を選ぶことで、補助金の採択率が高まります。
- 長尺材の加工に特化した機械
- 特定形状の自動搬送システム
- 業種特有の作業を自動化する装置
このような設備は「オーダーメイド性が高い」と評価され、カタログ製品としても登録されやすくなります。
よくある誤解と注意点
誤解1:「生産量が増えれば人手不足が解決する」
生産量が増えても、作業者が機械に張り付く時間が変わらなければ、人手不足は解消されません。補助金では「1人あたりの生産量」ではなく「作業時間そのもの」を評価します。
誤解2:「最新型なら補助対象になる」
最新技術を使った設備でも、単なる性能向上(速度、精度など)だけでは不十分です。人の作業を代替・削減する機能が明確である必要があります。
誤解3:「どんな設備でもカタログに登録されている」
汎用的な工作機械や一般的なOA機器は、カタログ製品として登録されていない場合があります。事前に事務局の製品カタログを確認しましょう。
まとめ:省力化補助金を活用するための考え方
中小企業省力化投資補助金を活用するためには、「効率化」と「省力化」の違いを正しく理解することが不可欠です。
覚えておくべきポイント:
- 補助金における省力化 = 人手作業時間の削減
- 機械の処理速度向上だけでは不十分
- 業務プロセスの変化を具体的に示す
- 自社の課題に特化した設備を選定する
「生産性を上げたい」という目的は同じでも、人手不足という社会課題の解決につながる投資を優先的に支援するのが、この補助金の趣旨です。
設備投資を検討される際は、「この設備で作業者の負担がどう減るか」という視点で計画を立てることで、補助金採択の可能性が高まります。